博士と助手

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「眼鏡の魅力は素晴らしい。そうだろう助手?」 「いいえ、博士。僕はコンタクトレンズ派です」 「「……」」  博士は親の敵みたいな眼光で僕を威嚇する。そんな博士を僕は「ああ、遂に考え過ぎて思考が可笑しくなったか」と思い、可哀想な人間を見る様な目で見詰めてあげた。  思考回路が飛んでいる博士。博士は常に頭が、思考がぶっ飛んでいる。故に頭は良いが性格がアレなので誰も助手をしようとしない。だが、僕は自ら博士の助手になりたいと志願をした。  理由は博士が結構美人だったからだ。人が初めて判断し、決断をするには十分な理由だと思う。 「助手。私は悲しいよ」  「そうですか。あ、試験管で作ったプリンでも食べます?」 「食べる」  博士に試験管で作ったプリンを手渡す。博士は美味しそうにストローで啜っては恍惚の表情を浮かべて数秒間動きが止まる。やがて再起動して啜って恍惚と言った手順を繰り返す。  僕はこの雰囲気が気に入っていた。何と言うか、淀んだ心が癒される気がする。 「それで助手。私は眼鏡の魅力を語りたい」 「先程の悲しみは消えましたか?」 「うん」  勝手に暴走しなければ博士は案外素直であった。暴走させない為に此方からコントロールすれば今だけ限定で素直博士となる。助手とは大変な仕事なのだ。 「……そうだな、助手。眼鏡の魅力を教えてやる。私に注目しろ」 「はい」  僕は博士の指示通り注目をする。決して博士の微かな動きを身落とさない為に凝視を行う。博士の目はワインレッドの色を帯びていて、とても奇麗だ。  注目してから一分経過。未だに博士に動きはない。一体どういう事なのだろうか。僕は博士の変化を見落としてしまったのかも知れないと思い、博士を更に注意深く見詰める。 「助手」 「はい、何でしょうか」 「……注目し過ぎ」  可笑しい。博士の指示に従っただけなのに。 「……確かに私は注目しろと言った。うん、言ったよ? でも、でもね。無言で見詰めながら徐々に顔を近づけられたら、私の心の眼鏡が割れちゃう」 「博士。意味が分かりません」
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