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「あ、あの冠く……」
しかし、おぼつかない私の言葉に重なるように、「ナッちゃん」と呼ばれる。
部屋の灯りは、足元の隅に置かれた小さな行燈調のものひとつ。
そして伸びてきた彼の手が、私の手をそっと取った。
「何もしない。ちょっとお喋りしよう?」
そう言って、床のほうへとゆっくり引いていく。
彼は、一枚の掛布団を静かに退けると、
そこで私を自分の膝の間に抱え込んだ。
「ナッちゃん、すごく綺麗」
背中からすっぽりと包まれ、呟くように言った彼の唇が
私の耳の裏側を掠めるように這う。
「あっ……、冠くん、何もしないって……」
「ごめん」
彼が、クスッと小さく笑って私をギュッと抱きしめた。
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