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第17章 見えないカーテン(つづき)
そして、
「ここなら、いい?」
うん。
頷いてくれた彼女を、いつものように抱きしめる。
しかしそこで僕は、はっきりと気が付いた。
いつもなら心地良い重みと温もりを預けてくれるのに、
今、腕の中にいる彼女は何も預けてくれない。
それどころか腕を回した瞬間、彼女の体が、わずかに硬直したのに気付いた。
「ナッちゃん、何かあった?」
僕は、回した腕を少し緩め、彼女を覗き込む。
「えっ? うぅん」
だがかぶりを振った彼女の顔は、暗くて、よく分からない。
それが、僕の不安を一層あおり立てた。
「ナッちゃん、何かあるなら言って?」
だがそれに、「何もないよ」と彼女は俯くように僕の胸に顔を伏せる。
それでも僕は、いつもの彼女の温もりが感じられない。
しかしそれ以上、何も言えなかった。
言えないまま、僕はこの夜、彼女を見送るしか出来なかった。
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