幸せになりたかった女

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 有加里は未だに、どこでどう二人の関係が狂ってしまったのか理解出来ずにいた。  急に無口で冷たくなった彼。  急に家では書斎に引き籠るようになった彼。  結婚後一年間は本当に穏やかで温かな家庭だったのに、今では必要最低限のことしか話さない。  寝室もいつの間にか別になった。  夜の営みなんて、この二年の間でいえば一度もない。  それどころか、一緒に住んでいても、顔を合わせることは食事の時と、玄関での見送り、出迎え程度しかないのだ。  正直、夫婦というよりも最早、「同居人」と言った方が正しかった。 「もしかして……ほかに女が?」  元々、自分に自信のない彼女は猜疑心に苛まれた。  健が洗濯籠に入れたワイシャツを入念にチェックしたり、彼が出掛けた後で、クローゼットの中の背広の中身や匂いをくまなく調べたりした。  医師の中にも喫煙者はいる。  スーツに微かに残る煙草の臭いの中に、微かに甘い香りが混じっていることが気になるといえば気になるけれど、それは決して女性ものの香水の香りとは違う。  これでは浮気の証拠にはならない。
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