幸せになりたかった女

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 怪しいと思い始めると、何もかもが怪しく思える。  医師なのだから、急患で呼び出される事も、帰宅が遅くなることも、学会で出張があることも多い。  その度に疑いだしたらキリがない。  それでも彼に強く言い出せないのは、「離婚」の文字がチラつくから。  仕事も辞めてしまった自分が、今ここで離婚を切り出されたら、これからの人生、どう生きて行けばいいのか分からない。  それに、今でも自分は夫のことを愛している。 「どうすれば……」  一見、何事もなく、普通の夫婦生活をしているように見える高梨家の実状は冷え切ったものであった。  実際に浮気の証拠があるわけでもないのに、こんな話は実家の両親に相談することも出来ない。  子供もおらず、近所付き合いも得意ではない彼女には話し相手も相談する相手もいない。  家の中の冷たさが、じわりじわりと有加里の心を侵食し、壊していくのにはそうは時間がかからなかった。  彼女はいつしか不眠症になり、心療内科に通い、薬を飲まなくては寝られないほど、心が衰弱していた。
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