幸せになりたかった女

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*** 「あれ? どこか悪いところでもあるんですか?」  有加里が病院で会計をしていると、横からいきなり男性に声をかけられた。  振り返ると、そこには白衣を着た成瀬が立っていた。 「あ、お世話になっております」  すぐに頭を下げて挨拶をした後で、「でも、成瀬先生。先生はたしかうちの主人と同じ〇△大学病院にお勤めでは?」と、あえて彼からの質問には答えずに話を逸らす。 「ええ。そうですよ。ただ、週に二日だけ、こちらの病院に派遣されているんですよ」 「そうだったんですか。大変ですね」  上手く彼からの質問をかわせたと思ったのだが、そうはいかない。 「で、今日はどこが悪くて……え? 心療内科?」  手に持つ領収書に書かれてある診療科の文字を見て、成瀬は驚いた。  誰にも知られたくなかったことだっただけに、勝手に領収書を覗いた成瀬に対し、少し顔を歪ませた。
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