幸せになりたかった女

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「そんな。駄目ですよ。頂けません」 「でも、下手な薬よりも心休まるでしょう?」  彼の言葉にピクリと有加里は動きを止めた。 「気持ちを落ち着かせる為に、煙草を吸うのも一つの手ですよ。薬は依存してしまいますから」  穏やかで優しい彼の声がじんわりと胸に沁みる。  有加里は何故だか分からないけれど、ポツリポツリと自分の不安や溜め込んでいた不満を彼に語りだしていた。  その日から、成瀬は有加里のよき相談相手になってくれた。  けれど、結局あの時手渡された煙草は受け取らなかった。 『温かな家庭を一緒に築いて欲しい』  結婚前に健から言われた一言が、彼女を止めたのだ。  家の中は彼の過ごしやすい場所にしておきたい。  その為には家の中に煙草の臭いをさせたくない。  そう思ったのだ。  その代わりに、お酒の美味しさを知った。
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