幸せになりたかった女

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 元々、飲み会に行ってもウーロン茶しか飲まなかった有加里だが、適度なアルコールは睡眠にいいという成瀬の言葉を鵜呑みにし、ワインを飲むようになった。  ただ、いくら成瀬と飲んだり、相談したりしても、健との生活は変わる事はなかったし、有加里も別に成瀬に何かをして欲しいわけではなかった。  ただ、話を聞いて欲しいだけ。  ストレスの発散の場が欲しいだけであった。  有加里としては、ただ聞いてくれるだけの成瀬の存在は、とても大事なものであったし、彼の話から、夫が浮気をしている心配がなくなったことも有り難かった。  彼の話によれば、健は今、昇格する為の一番大事な時らしく、書斎に籠っているのも論文をまとめるのに必死なのであろうことや、プレッシャーがあまりにも大きくて、気持ちに余裕がなく、一番安心できる存在である有加里に当たってしまっているのだろうと話してくれた。  そう考えれば、一人で思い悩んでいたことがバカらしくなるほど、一気に気持ちは軽くなる。  勿論、健の冷たい対応に心が折れそうになることもあるが、それでも、成瀬がお酒に付き合ってくれ、愚痴を聞いてくれるので有加里はいつしか不眠症で病院に通わなくても、ぐっすりと眠れるようになった。  健が昇格し。  気持ちにも余裕が出来た頃、また再び、あの優しい彼に戻ってくれることを夢見て――――
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