幸せになりたかった女

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 朝食を終え、片づけをしているとインターホンが鳴った。  今日は日曜。  休日の朝早くから尋ねてくるのは、身内ぐらいしか思い浮かばないが、一応、ドアホンで確認する。  モニターに映っているのは、若い男性。 「はい。どちら様でしょうか?」  ドアホン越しに声をかけると、彼はカメラに向かって一礼した。 「おはようございます。ご主人の後輩で成瀬(なるせ)と申します」  いかにも好青年といった彼は、はっきりとした口調で答えた。  そういえば、昨夜、夫である健(たける)から、「明日、医局の後輩がうちに来るから」と言われていたが、再度、本人に確認を取った方がいい。 「少々お待ちくださいませ」  一旦、ドアホンを切らせてもらう。 「あなた。成瀬さんがいらっしゃいましたけど」  急に扉を開けることはせず、書斎の中にいる夫にドア越しに声をかける。 「ああ。応接に案内してくれ」  家にいる時の殆どを書斎で過ごしている彼は、仕事の邪魔をされるのを極端に嫌がる。  結婚当初。  そんなこと知る筈もない有加里(ゆかり)が、夕食の準備が整ったと知らせる為、勢いよく扉を開けた途端、怒声が響いた。  大切な書類を万年筆で清書している最中に、有加里が急に扉を開けたことに驚いて、書き損じてしまったのだ。  その一件から、彼が書斎にいる時には、急に扉を開けないようにと取り決めがなされたのだ。  健からの返事を受け、玄関へと急ぐ。
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