幸せになりたかった女

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「なに二人で見つめ合ってるんですか」 「いや、だってお前。玄関からここまでのどこに、俺と妻との間にラブラブ要素があったっていうんだ?」  健の言う通りだ。  成瀬の前では、有加里と健はまだ一言も互いに言葉を交わしていない。  手を握ったり、目配せしたりといったことも一切ない。  一体どこを見て、彼は二人のことをラブラブだと言うのだろうか?  間抜けな顔をして成瀬を見つめる二人に、彼はフフンッと鼻を鳴らした。 「誤魔化しても僕は騙されませんよ。だってお二人共、全く同じメガネをしてるじゃないですか。そんな夫婦、中々いませんよ」  指摘された二人は「あっ」と同時に声をあげた。  確かに二人の眼鏡は、同じブランドの全く同じ型番、同じ素材のフレームである。  今まで誰にも指摘されたことが無かったのですっかり忘れていたのだが、外科医である健が、普段、指輪をつけられないという理由から、結婚指輪の代わりに、日常生活において必需品である眼鏡をお揃いにしようと言って買ったのだった。 「よく気がついたな」  本気で感心する健に、「えー。きっと、皆は気が付いてても、高梨せんぱ……じゃない、高梨先生の『話しかけるなオーラ』に圧倒されて言えないだけですよ。だいたい、毎日愛妻弁当を持ってきている時点で、ラブラブなのはバレてますけどね」と笑った。
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