幸せになりたかった女

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「いいえ。私の目が大きいんじゃなくて、眼鏡のお陰で大きく見えるのよ」 「え? 眼鏡?」 「ええ。私の場合は近眼じゃなくて遠視なの」 「あ~。成程。遠視の場合は凹レンズではなくて、凸レンズを使いますもんね」  合点がいったようで、成瀬は一人で原理を語り、一人で納得していた。 「そういうことだ。もう無駄話はそのくらいにして、さっさと仕事を片付けるんだろ?」 「あ、そうでした」  本来の目的を思い出した成瀬は、スッと真面目な顔に戻った。  それから二人は応接室へと入り、有加里は成瀬から貰ったお菓子と共にお茶を出した後、すぐにまた家事へと取り掛かった。  一時間程度で仕事は済んだようで、昼食を一緒にと誘ったのだが、彼はこれから約束があると言って、申し訳なさそうに頭を下げて立ち去った。  玄関の扉がパタリと閉る。  外と家の中とが、たった一枚の扉によって遮られた時、健が口を開いた。
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