幸せになりたかった女

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「おい。有加里(あかり)。応接室のソファーに埃が溜まっていたぞ。それに、窓ガラスに指紋がついたままだし。専業主婦なんだから掃除くらいはしっかりしてくれよな」  成瀬がいた時とは全く違う声色。  不機嫌さを露わにした彼に、有加里は恐縮したように肩を縮こませた。 「はい。すみません」 「まったく。俺に恥じをかかせないでくれよ」 「これからは気をつけます」  謝っても、尚も厭味を言う健に反論することなく、従順な態度で頭を下げる有加里が面白くないのか、彼は小さく舌打ちをした。 「もういい。俺はまだ仕事があるから」  静かに閉められる書斎のドア。  有加里は自分と彼との境界線が引かれたような気がして、胸を痛めた。
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