幸せになりたかった女

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 ***  医者である健とは、結婚三年目。  彼とは叔母からの紹介でお見合いをした。  初対面での彼の第一印象は、銀縁眼鏡に、切れ長の目。  そして、スマートな体型から少々神経質そうなタイプかと思い、有加里は妙に緊張した。  けれど、着物で歩きづらい有加里の歩幅に合わせ、さりげなく手を差し伸べてくれる優しさに一瞬で心を奪われた。  話してみると、ユーモアもあり紳士的であった。  正直、彼の年収や職業も魅力的ではあったのだけれど、それ以上に彼の人柄に惹かれた。  とはいえ、当時、一応東証一部上場企業の本社に勤務していたことを抜かせば、見た目も家柄もごくごく普通の有加里と彼とでは、誰がどう見たって釣り合わない。  彼ほどのスペックなら、既に多くの女性が妻の座を狙っているだろうことは簡単に想像できた。  人のいい彼のことだ。  断り切れず、自分の上司に義理立てする為に、お見合いをしてくれたのだろうと思った。 『いくら私が好きになっても無理よね』  お見合いが終わって帰宅をすると、鏡に映った冴えない自分の姿に自嘲した。  しかし幸運の女神はそんな有加里に微笑んだ。
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