幸せになりたかった女

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 彼から結婚を前提にしたお付き合いを申し込まれたのだ。  そこからは、まるで夢のような毎日であった。  何度もデートを重ね。  会う度に、彼の誠実さや、豊富な話題で飽きさせない会話。  何事もスマートで時間にもきっちりとした真面目なところに、どんどん惹かれていった。  知れば知る程、こんな完璧な人が世の中にはいるのかと思い、隣を歩くのもたまに萎縮してしまう事もあった。  何の取り柄もない自分が本当に彼と付き合っていてもいいのかと、思い悩んだことも多々あった。  けれど、そんな有加里の気持ちを彼はいつでも汲み取ってくれた。 「有加里だから好きになった」 「見た目や職業ではなく、自分の中身を見てくれて、温かな家庭を一緒に築ける人だと思ったから一緒にいるんだよ」  ちゃんと言葉と態度で安心させてくれる彼だからこそ、プロポーズされた時には涙を流し、二つ返事で即座に答えた。  彼の強い希望もあって、家事に専念し、忙しい彼が癒される家庭を作るため、仕事も辞めた。  同僚からの妬みの声もある意味快感であったし、何より、家族が喜んでくれたことも嬉しかった。  これからきっと、素敵な結婚生活が待っている。  そんな希望に溢れた日々であったし、結婚後も変わらず優しい夫に、有加里は幸せを噛みしめ、自分も彼の為にと、一生懸命、家事を頑張った。  それが――――  一体、どこから歯車が変わってしまったのか。
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