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今日は鏡割りだった。滅多に雪の
降らない海沿いでも真冬の夜は寒い。
長い間剣道と離れていた伊藤賢一が勘を
取り戻したくて通い始めた近くの道場で
稽古を終えて自宅への最後の角を曲がると、
部屋に灯りがついているのが見えた。
理美が来ている。
ようやく再会した塚原理美は今は他人
(ひと)の妻だ。あれから二十五年もの
月日が流れたのだ。彼女が結婚している
ことは想定内であり、彼自身もかつて結婚
していたことがあった。だが、理美が帰る
のを見送る度に彼は言い様のない苛立ちを
覚えるのだ。何度理美を抱いてもそれは
影のように纏わりついて賢一から離れない。
その苛立ちは嫉妬なのだろうか。
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