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俺だってイヤだった。
遠巻きに女の子たちがこっちを見ているのも嫌だったし、王子と遊びたいとも思わなかった。……俺はハチの一件以来、どうにも王子が気に入らないのだ。
それにカッキーは王子を避け続けていたから、カッキーのためにも王子を仲間に入れるわけにはいかないと変な使命感をもってもいた。
「おうじさまはー、女とあそんでればいいじゃん」
「そーそー」
だから俺も他の連中に便乗して、
「ヒロくんってあっちで呼んでるみたいだぞ」
こっちを窺っている女の子たちの方を指さしてやった。――さっさと立ち去れとばかりに。
勢い込んで来た王子は、その場の受け入れられない空気に居たたまれなくなったのか、唇を噛んで悲しそうにうつむいた。
「ぼ、ぼくは……今日でさいごだから、だから……」
言いかけた言葉はそれ以上続けられず、かわりにピアノを弾くらしい小さくて白い手が、お腹の前でぎゅうと組み合わされる。
意外と粘る王子に、俺たちの間にしらけた空気が流れた。せっかく楽しく遊んでいたのに邪魔されたのだから迷惑しか感じなかった。
だが、――救いの手は、意外なところから差し伸べられた。
「いいよ」
カッキーの明朗な声が、その場の重くなった雰囲気を一息に払う。
「いっしょにあそぼう」
はっきりとそう断言したカッキーに、その場にいた全員があっけにとられた。
とくに声を荒げたわけでもないのに、一瞬でカッキーはその場の主導権を握ってしまった。
俺も含めた仲間の誰も文句を言えなかったし、なぜか言う気概すらなくなっていた。
「ほら、なかに入ってあそぼう」
その頃には語彙も増え、喋り方もずいぶん達者になったカッキーが、急な展開についていけずに立ち尽くしていた王子を誘う。
「あ、…うん!」
ぴょんと飛び上がった王子は大きく頷くと、いそいそと嬉しそうにカッキーのあとに従った。
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