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俺がくじ運の悪さにぶつくさ文句を言うとカッキーは必ず、
「ウッチー、世の中上には上がいる。おまえの運の悪さなんか、まだまだ笑ってすませられる程度だろ? ……世の中にはなぁ、触しゅ…ミミズの巣穴に落っこちちゃうような笑えない究極の運の悪さを持つヤツってのがいるんだよ…」
と、どこか遠い目をして慰(なぐさ)めてんのか諦めろとトドメをさしてるのかイマイチ微妙な訓戒を説いてきたものだ。
ときどきカッキーのたとえはエグい。ミミズの巣穴とか……そんな運の悪さは、かなり本気でイヤだ。そいつに比べたら多少の不運など確かに笑って流せるだろう。
それに、結果的に「魔王」役になったことでカッキーと仲良くなれたのだから、長い目で見ればそれすら幸運だったのかもしれない。
その劇で、俺は魔王役、カッキーは魔王を退治する王子――の、家来その3だった。
つまり完全なるモブ(脇役)である。
セリフも「ははー」とか「やぁ!」とか、その程度の簡単な役どころで、家来その1や家来その2にくらべても非常に影の薄い役だった。
ちなみに王子役に選ばれたのは、園で人気ナンバーワンのイケメン幼児で、オシャレで性格も良く、たぶんイイとこのお坊ちゃまで、ピアノとか習ってて、いつも女の子たちに囲まれてちやほやされているようなヤツだった。
名前は確か…………ヒロ…なんとか。ヒロほにゃらら。ヒロのあとになにかついていたはずだが、忘れた。
……まぁ、所詮男の名前だ。なにも問題ない。
確か、ヒロくんとかヒロちゃんとか、そんな風に可愛らしく呼ばれていたはずだ。
さて、発表会の本番。
舞台の上で事件は起きた。
当然、誰もそんな事態になるなど予期していなかった。――たぶん事件を引き起こした本人であるカッキーでさえも。
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