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今思えば、こんな幼い当時から、カッキーは女あしらいが微妙に長(た)けているヤツだった。
そのせいか、顔も性格も派手なところは一つもないくせに、クラスに必ず一人はあいつを好きな女子がいたりした。
俺が好きだった「ともちゃん」もヤツが好きで、バレンタインにチョコを贈ったりしていた。
……出来心でそのチョコを勝手に食っちまったときには重い拳骨(げんこつ)を食らったが、カッキーが「ともちゃん」の気持ちに応えることはなかった。もしかしたら俺の気持ちを知っていたのかもしれない。
平時、すべてにおいてわりと適当で、目立たず騒がず周囲に流されているように見えるカッキーだが、「魔王成敗事件」(またの名を「家来暴走事件」)の後も時々やらかしてくれた。
とくにその中でも、俺の印象に今でも強く残っているのは「スズメバチ事件」だ。事件名からして不穏な感じだが、これはマジでちょっとした大事(おおごと)だった。
ある日、園の保育室にスズメバチが数匹、開け放った窓から飛び込んできたのである。
保育室は逃げ惑う園児たちで一瞬にしてパニック状態に陥った。
「いやあああ、ハチこわい~っ!」
「せんせい、せんせい…!」
「わ! こっちきたっ」
「さされるぅ~~!」
泣き出す子や、保育室から逃げ出そうとする子、おびえて部屋の隅で縮こまる子……。
その場にいた若い女性保育士である「保育園の先生」さえ、子供たちと一緒になってスズメバチから逃げまわっていた。
「お、おちついて! そっとハチから離れてね…! あ、あわてないで、逃げて…! あっあっ、やだ! こっちこないで…! ドア近くの子は、そこから出て……他の先生、助けてって呼んできて…!」
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