コーンポタージュが好きな君

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 その日、夕食後に今日三杯めのコーンポタージュを飲み干して、ふと考えた。  私はどうしてコーンポタージュが好きなのか。他の何でもなく、コーンポタージュが。  単純に味が好みだとか、小さな頃によく飲んだとか、それだけではない。  クッションに座って天井を見上げ、ぼうっと白い壁を眺めた。  記憶をさかのぼると、いつかの自分の声が聞こえた。 「何作ってるの?」  幼い私が問いかけたのは、同じく幼い女の子。彼女の手には、スプーンと湯気の立つマグカップがある。  湯気に頬を染め、彼女は私にカップを差し出した。 「作ってるってほどじゃないけど、はい!」   差し出されたカップの中には、とろりとした黄金色の液体。  ふうふうと冷ましていると、黄金の水面にさざ波が立った。そろそろと口をつける。口いっぱいに広がる、とうもろこしの甘みとコク。  目を丸くする私を見て、女の子は満面の笑みを浮かべた。 「初めてお家に来てくれた記念!」  私がコーンポタージュを好きなんじゃない。彼女が好きだったのだ。  いつの間にか涙がこぼれていた。頬から顎へと伝い落ちた涙は、そのままぽたりと落下し、ジーンズの太ももを濡らす。  その思い出を皮切りに、次々と記憶が引っ張り出される。  ケンカした翌日、缶のコーンポタージュを持って、彼女は「ごめん」と謝ってきた。  大学の推薦に落ちた時、タンブラーのコーンポタージュを差し出して「まだ大丈夫!」と励ましてくれた。  一般受験で合格した時には、コーンポタージュの粉末を2セットも買ってきた。  私が初めて彼女に想いを伝えた時も、彼女は謝りながらコーンポタージュをかきまぜた。  彼女に恋人ができたと告げられた後も、彼女は黙って私にコーンポタージュの缶を差し出した。  私が好きなわけじゃない。  大好きな彼女がコーンポタージュを好んでいた。  よく今まで忘れていたものだ。それとも忘れていたかったのか。
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