1人が本棚に入れています
本棚に追加
その日、夕食後に今日三杯めのコーンポタージュを飲み干して、ふと考えた。
私はどうしてコーンポタージュが好きなのか。他の何でもなく、コーンポタージュが。
単純に味が好みだとか、小さな頃によく飲んだとか、それだけではない。
クッションに座って天井を見上げ、ぼうっと白い壁を眺めた。
記憶をさかのぼると、いつかの自分の声が聞こえた。
「何作ってるの?」
幼い私が問いかけたのは、同じく幼い女の子。彼女の手には、スプーンと湯気の立つマグカップがある。
湯気に頬を染め、彼女は私にカップを差し出した。
「作ってるってほどじゃないけど、はい!」
差し出されたカップの中には、とろりとした黄金色の液体。
ふうふうと冷ましていると、黄金の水面にさざ波が立った。そろそろと口をつける。口いっぱいに広がる、とうもろこしの甘みとコク。
目を丸くする私を見て、女の子は満面の笑みを浮かべた。
「初めてお家に来てくれた記念!」
私がコーンポタージュを好きなんじゃない。彼女が好きだったのだ。
いつの間にか涙がこぼれていた。頬から顎へと伝い落ちた涙は、そのままぽたりと落下し、ジーンズの太ももを濡らす。
その思い出を皮切りに、次々と記憶が引っ張り出される。
ケンカした翌日、缶のコーンポタージュを持って、彼女は「ごめん」と謝ってきた。
大学の推薦に落ちた時、タンブラーのコーンポタージュを差し出して「まだ大丈夫!」と励ましてくれた。
一般受験で合格した時には、コーンポタージュの粉末を2セットも買ってきた。
私が初めて彼女に想いを伝えた時も、彼女は謝りながらコーンポタージュをかきまぜた。
彼女に恋人ができたと告げられた後も、彼女は黙って私にコーンポタージュの缶を差し出した。
私が好きなわけじゃない。
大好きな彼女がコーンポタージュを好んでいた。
よく今まで忘れていたものだ。それとも忘れていたかったのか。
最初のコメントを投稿しよう!