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「楓に何言ってんの林くん」
「いや僕の事青木とか森とか言うから」
「あはは!いいねそれ」
「全く良くないからね」
「森くんも帰りなよ。寒いんだから」
「いや、それおかしいでしょ瀬上さんは知ってるでしょ林だって」
拗ねたような口ぶりとは真逆の微笑みのまま、手のひらは先ほどからひらひらと揺れたままだ。
葵の物言いに怖気づくこともなく、むしろそれを愉しんでいる余裕すら感じられる。
時たま葵の口からこの同期の話題が出てくる事があるが、成程。
同期と掛け合いしながらも、葵は手にあるホットココアの缶をぷしりと開けた。
そこから白いもやが浮かび上がるのと同時に、甘い香りが鼻腔をくすぐる。いいにおい、と呟いた葵はそこに唇を付けた。
「んー、あったかい。あったまるー」
「いい友達持ってるよね瀬上さんって」
「羨ましいでしょ」
「そうねー羨ましいわ」
「林くん気持ち悪い」
「そう?けっこう似合ってない?」
「似合わない」
何故かこの男、歩き出した私たちに何の違和感なく混ざっている。
しかも私と葵の間に。
そういえば利用する駅が一緒だとか葵が言っていた記憶が微かにあった。
今日はこのまま葵の家で呑みに興じる予定だ。
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