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何があっても、一日は過ぎていく。
何もなくても、一日は同じように過ぎていく。
「お疲れさまです」
ロッカーに残る社員達に会釈を伴う挨拶をすると、ちらりと目線だけ寄越した彼女達はおざなりに返して元のおしゃべりに戻った。
賑やかだ。
正直賑やかというより、喧しい。
そう思っていることが伝わっているのだろう、入社してだいぶ経つがこれといって親しい同僚は未だに居ない。
トイレで自分の陰口を耳に挟むことも珍しくなかった。
無愛想。お高くとまってる。
何考えてるのかわからない。不気味。
どれも合っているようで、どれも違うような気がする。
言い訳しようと思うどころか、コンプライアンス研修を受けているはずの彼女達がトイレでそういう話をすることに軽い軽蔑すら覚えている。
仕事さえきちんとして社会人としてのマナーさえ守っていればそれでいい。
会社は学校とは違う。
友達を作るために来ているわけではないのだ。
……まあ、学校でも友達は全然いなかったけど。
女子用ロッカーから出て社用口へと向かいながらこれからの予定を考えた。
自宅アパートに帰るためには電車に乗らなければいけない。
でも、今日は違う。
そのまま歩いて目的の場所へと向かった。
「さむ……」
首に巻いた真っ黒なファーを口元まで寄せ直し、肩を震わせた。
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