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人を待つのは苦ではない。
慣れているし、どちらかといえば好きな方なのかもしれない。
缶を包んだ両手の力を少し強めて包み直して、ゆっくりとそこに唇をつける。
じんわりと温かいレモンの液体が口から喉へと流し込まれていくのがはっきりとわかった。身体の芯から温まってゆくというのは、こういう感覚なのか。
ふと、脚が微かに震えているのに気が付いた。
そこまで自覚はなかったが、やはり身体もかなり冷えていたらしい。
缶を包んでいる手の指先が、温度差からか少し痛い。
「寒くない?」
ふいに声がした。
それが自分に向けられていると気付くまでしばらく時間がかかったのは、視線をどこに定まらせるわけでもなくぼんやりとしていたからだ。
「瀬上さん待ってるんだよね?」
待ち合わせ相手の名前を出されたことで我に返り、視界のピントが合う。
細い二本の脚が目の前にあった。
ゆっくりと顔を上げていくと、脚の印象を崩すことのないひょろっとしたシルエットのままの男が立っている。
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