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ベンチ横の街灯に照らされた表情は微笑んでいて、そこがまた胡散臭い。
二月だというのに厚手のカーディガンを羽織っているだけというのも、おかしい。
こっちはコートを着ていても寒いというのに。
「……誰」
少しの空白の後、思ったままを口にしたら一瞬だけ男の表情が曇った。
しかしやはりそれは一瞬の事で、すぐさま柔らかな笑みに戻る。
何だっけ、この胡散臭さ。記憶にはあるがすぐに思い出せない。
人の顔を覚えるのは苦手なのだ。
「酷いなあ。たぶん瀬上さん五分程度遅れると思うよって伝えに来た親切な同僚ですよ」
肩を竦める仕草すらまた胡散臭さを覚えてしまう。
この胡散臭さ、やはり記憶のどこかにいる。
葵の同僚と男は言った。
そうだ、胡散臭いほどに笑顔を絶やさない葵の同僚。
話でちらりと聞いたことがあるし、店を通る時に見かけたことも約二年の間に幾度かあった。
というか、つい最近もあった気がする。それなのに覚えていない自分に、多少呆れる。
「……葵の同期の」
「そう、同期の」
「……青木」
「違います」
「……木っぽい人」
「アバウトだなあ。合ってるけど」
「……森」
「惜しいねえ」
こういう人種をなんと言うんだっけ。
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