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「変じゃない」
「もっと具体的な感想を聞きたいんだけど!」
「めんどい」
「酷くない?」
「夜会うんでしょ、悠貴くんに。直接聞けばいいじゃん」
「げっ」
なんでわかんの、と言いかけた時に例の店員が葵の頼んだ珈琲を運んできた。
慌てた葵が愛想笑いと軽い会釈をして、珈琲カップを両の手のひらで包む。
ほっと葵の息が緩んだのがよくわかった。
「ところで」
温かい珈琲のおかげで緩んだと思った葵の頬と目つきが、顔を上げた途端に鋭くなった。
私と林とも交互に見遣ってから私一点に絞られた葵の視線。
元々そんなに高くない声を更に低く落としている。
心なしかボリュームも小さい。
「……あんた達、まさか、付き合ってるの?」
「は?なんで?」
「だってさっき林くんが何かそういうような話してたじゃん」
「してないって」
「だ、だだだ大事に想ってるみたいな事言ってたじゃん」
「それは」
「それは?」
万が一にも考えていなかった質問に反応より先に疑問の声が出た。
そこからぽんぽん飛び出す葵の設問にプラスされて微妙に斜めの位置ではあるがほぼ目の前に座る視線をビシビシと感じざるをえない状況。
しかしそれに対する適切な答えを今の私は持っていない。
逃れるように窓の外を見遣ると、細い雨が降り出していた。
「瀬上さん勘違いしすぎー」
へらりと入ってきたのは他でもない。林だ。
いつの間に頼んでいたのか、先程葵の珈琲が運ばれてきたときに追加で頼んだホット珈琲を手に取って優雅にひと口飲んでから、改めて言う。
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