4.黒猫の憂鬱

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 それでも一応確認してくるのはおそらく、念のためだ。 「ホント。この子が葵たちに変な横槍入れてるのかと思って注意したらそう返された」 「そうなの……」  小さくため息をついてから答えると、葵の眉間の皺が少しだけ緩む。  頭では分かっていたことなのに、葵が本当に林を信頼していることを目の前で見せられたのは初めてだ。  今更ながら少しでも疑って悪かったかなとちらりと林を見ると、とても優しい微笑みを浮かべて葵を見つめていた。  それを見ただけで、言葉通り葵を大切に想っているのが充分にわかる。  あの表情も、あの瞳も、込められてる感情は恋愛ではない。  自分のものにしたいという独占欲に似たものではない。  幸せであってほしいと願う相手に向けるものだ。  そうか。だからあの日の林は私にあんなことを言ったのだ。  自分と同じ瞳をしていると、わかったから。  ひとり納得して手にしたカップに唇を付け、中が空なことに気付いた。  思っていたよりも早く飲んでいたようだ。  この妙な三つ巴状態に喉が渇いていたらしく無意識に飲むスピードが早まっていたらしい。  椅子の下に移動させておいた鞄を手繰り寄せて立ち上がる。  私の動きに気付いたふたりの視線を一気に浴びることになったが気にする必要もない。  立派な理由がある。 「葵、私帰るね」 「えっ」  帰るの?この状況で?  と言わんばかりに珍しく目を少し見開いた葵がテーブルの上で私へと手を伸ばしかけた。  こんな葵は本当に珍しい。  だって、普段はもっと周囲が見えているのに。  言葉の代わりに店内を軽く見遣ると同じように葵も見た。  そして理解したようだ。自分を恥じるように肩をすくめてから改めて私を見上げる。
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