4.黒猫の憂鬱

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「ごめん、混んできてたね」 「ん。またゆっくり話そ」 「わかった。この前の埋め合わせもするから」 「埋め合わせ?」 「ほら…お泊りの日結局ちゃんと話せなかったから」  後半声をひそめて口元に手をかざしながらそっと付け足した葵を、少し離れた林はにこにこと見ていた。  にこにこ…いや違う、にやにやとしている。  葵。  多分それ普通に聞こえてると思う。  自分を一瞥していることに気付いた林は今度は私を見て上品に微笑んだ。  完全無視をして葵に向き直る。 「でっかい仕事も無事終わったし、また葵の都合良い日教えて」 「わかった」  軽く手を振ってから林に目線を移して軽く会釈して「……じゃ」とひと言告げた。  さすがに挨拶くらいしないと後味が悪いと思い声をかけたのだが、林が大げさな程に目を丸くしてからにっこりと極上の笑みを浮かべて「じゃあね」とキザに手を振った瞬間それを激しく後悔した。
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