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「あれ、珍しいツーショット」
「そ?」
聞き慣れた涼しい声が降ってくる。
答えたのは隣に座った男だ。
店に近い側に男が座ってしまったため、この葵の同僚から意図的に視線を逸らしていた私は完全に出遅れた。
声のした方へ振り向くと、見慣れた顔がすぐ目の前にあった。
眉間に皺が少し寄っているのは本来約束した時間に遅れたからだろう。
「ごめんね楓、遅れちゃった」
そして予想された言葉が薄い唇から発される。
「大丈夫」
「ごめんねほんと、寒かったでしょ?」
「大丈夫だって」
「ホットレモン飲んでましたもんね」
「…………」
「…………」
「あれ、なんでふたりして黙った?」
目の前に立っている葵と隣に座っている私、ふたりに冷たい目で見られた男はにこやかに笑いながら交互に私たちの顔を見た。
いつまでこの場にいる気なんだろう、この男。
ものすごく不快というわけでもないがどちらかといえばいない方がありがたい。
そんな事を思いつつも実際は黙ったままポケットに手を突っ込んで、葵へと伸ばした。
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