1.黒猫と化狸

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 反射的に両手でそれを受け取った葵は、手のひらに一度視線を向ける。  そして少し驚いたような顔をして私を見た。 「……いいの?」 「ん」 「ありがと。有り難くいただくね」 「お疲れ」  心底嬉しそうに缶を両手で包み、それから頬へと当てる。  葵は自分を可愛げがないと思っているけれど、ぬくもりに頬を寄せるその姿はとても可愛いと、私は思う。  顔の造形が整っているから冷たく見えるだけで。 「…っしょ、っと」  隣の男が伸びをしながら立ち上がった。  右手でホットココアを頬に当てたままの葵がそれに反応して、口を開く。 「林くんも。今日はありがとね」 「いーえー」  軽く答えた男、もとい林――そうだそんな名前だった――は出来すぎるくらい綺麗に微笑んで、その言葉以上に軽く手を振った。  そしてこちらに向き直ると、念押しするように笑う。 「ってことで、林だからね」 「……はあ」  覚えている保証はありませんがいいですかね。  心で突っ込む私を知ってか知らずか、きょとんとした様子の葵が首を傾げて問う。
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