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反射的に両手でそれを受け取った葵は、手のひらに一度視線を向ける。
そして少し驚いたような顔をして私を見た。
「……いいの?」
「ん」
「ありがと。有り難くいただくね」
「お疲れ」
心底嬉しそうに缶を両手で包み、それから頬へと当てる。
葵は自分を可愛げがないと思っているけれど、ぬくもりに頬を寄せるその姿はとても可愛いと、私は思う。
顔の造形が整っているから冷たく見えるだけで。
「…っしょ、っと」
隣の男が伸びをしながら立ち上がった。
右手でホットココアを頬に当てたままの葵がそれに反応して、口を開く。
「林くんも。今日はありがとね」
「いーえー」
軽く答えた男、もとい林――そうだそんな名前だった――は出来すぎるくらい綺麗に微笑んで、その言葉以上に軽く手を振った。
そしてこちらに向き直ると、念押しするように笑う。
「ってことで、林だからね」
「……はあ」
覚えている保証はありませんがいいですかね。
心で突っ込む私を知ってか知らずか、きょとんとした様子の葵が首を傾げて問う。
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