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クレアを抱えたまま丘までやってくると、幾分か雨はおさまりつつあった。
それでも、細かい粒子のような霧雨は俺とクレアを濡らしていく。
雨宿りをしようとするたびに早く早くと急かされたせいで、ふたりとも頭から足までずぶ濡れだ。
「で、どうするんだ」
「何が?」
「こんなところに来て。なんにもないぞここ」
街からほど遠く離れたこの丘には、何もない。
人も、店も、何も。あるのは今にも崩れ落ちそうな石造りの建物で、穴だらけのそこは雨宿りすらできそうにない。
クレアは建物に目もくれず俺の腕から降りるとすたすたと歩いていき、水たまりめがけて大きく足を踏み出した。
「雨の日の散歩はそんなに楽しいか」
「うん! すっごく!」
水たまりに飛び込んで大きな水しぶきを俺にひっかけては笑う。服も髪も肌にぴったりとくっついてしまって気持ちが悪い。
なのに、クレアはずっと笑っている。
「レインは、楽しくない?」
「……雨は……好きじゃないな」
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