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「あのね、……雨が降るから、虹が存在するんだよ」
「うん?」
「この間読んだ本に書いてあったんだ。雨があるから、その先に虹があるの」
「……」
「だから、レインのいく先にも虹はあるよ」
これまで生きてきて、雨上がりの空を見上げたことなんかなかった。
存在は知っていたけれど、この目で虹をみたことなど、一度もなかった。
……いや、見たことはあったのかもしれない。
ただ、生き抜くことに必死で……気付けなかっただけなのかもしれない。
「俺の名前が、雨だからか」
「希望の虹に繋がる、恵みの雨――あたしにとって、それはレインだよ。名前なんて、関係ない」
聞いてるこっちが恥ずかしくなるような言葉を、クレアは恥ずかしげもなく紡ぐ。
その表情はいつになく真剣で、クレアのわがままに付き合ってここまで来たと思っていたがすべては俺の為だったのだと思い知る。
……だったら、俺も。少しは素直になるべきか。
「クレア」
「うん?」
「虹を、見れてよかった。……あんたと、一緒に」
「……っ」
顔を真っ赤にしたクレアの喉がきゅうううっと鳴った。そこで子犬でも飼ってるのか。
からかうように喉元を撫でれば、じたばたともがいて逃げようとする。ちょっと、うっとりしていたくせに。一瞬で正気に戻って逃げようとする。
だからだろうか、逆に追い詰めてさらにからかいたくなるのは。
いつになく楽しくなり、身を捩るクレアを後ろから羽交い絞めにして腕の中に閉じ込めた。
「レイン! からかってるでしょ!」
「まさか」
「声が笑ってる!」
落ち着きのないじゃじゃ馬はおとなしく腕の中に居ようとしない。
丸っこい頭と、さらさらの胡桃色の髪は手触りがいい。濡れたそれを好き勝手に撫で回して、ふと気付けば空に浮かんでいた虹は消えてしまっていた。
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