~ある雨の日のお話~

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◇◆◇◆◇  酒場――Cuore(クオレ)。ここは、傭兵が“働く”酒場だ。  傭兵たちは護衛に戦い、はたまたただのお使いという多くの幅広い依頼を受けて仕事をこなすが、ここに名を連ねる俺も例外ではなく、依頼のない時は酒場で働いている。  ……といっても、ある理由から俺はしばらく依頼を請け負う事はないのだが。 「ねえねえレイン、これとこれ、どっちがいいと思う?」 “ある理由”の要因が大きな胡桃色の瞳を爛々と輝かせながら問いかけてくる。  俺にはこの子――クレアを、護衛するという任務がある。    Cuoreで暮らすこの子を護衛するという事は、ここから離れられない時が多々あるという事で。  自然と、俺はカウンターでグラスを磨く仕事が増えていた。  今日も変わらずグラス磨きに没頭していた俺に投げかけられた問いは、心の底からどうでもいい事。 「……別に。どっちでも変わらないだろう」  素直に答えると、途端につるりとした頬が膨らんだ。  冷たい、と吐き捨てて踵を返した背中はぷりぷりと怒りをはらんでいるが、あれがすぐに機嫌を直すことは知っている。 .
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