~ある雨の日のお話~

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「……悪い」 「え?」 「わからないなら、いい」  顔を背けてすたすたと歩み始めれば、わざとらしい盛大な溜息が背中に投げかけられた。  なんだ、と問いかけるよりも早くクレアは「わかりにくい」と低く吐き出した。    そのまま大股で離れていた距離を埋めると、顔を覗き込んでくる。肌荒れひとつないつるりとした眉間に、深い皺を刻んで。 「レインって言葉が足りないんだよ」  突然の叱責に、胸の辺りでサクッと音がした気がする。  ちくりとした痛みに動きを止めた俺に構わず、クレアは唇を尖らせて続ける。 「言わなくてもわかり合える関係って憧れるけど、そんなの同じ人間じゃないんだから無理じゃない。言ってくれないと、わかんない」 「だから、わからないならいいって、」 「わかりたいから言ってるの」  俺の言葉を遮ってぴしゃりと言い放ったクレアは、小さな拳を握りしめて顔を近付けてきた。  小さいくせに、つま先で立って俺との距離を近付ける様は必死でいじらしくて、ものすごく申し訳なくなった。  クレアは、俺と正面からぶつかり合って、わかろうとしている。  まっすぐなクレアの瞳に気圧され、目を逸らして小さく零した。 .
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