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「……さっきの。苺でいいんじゃないか」
「へっ?」
「どっちがいいって、聞いてたじゃないか。あれ、苺で」
自分でも思っていた以上に情けない小さな声になってしまったが、クレアにはきちんと届いていたようで何故かしゃがみこんでしまった。
両手で顔を覆って、肩を震わせて。
どうした、と肩に触れようとしたら勢いよく顔を上げて「ばか」と罵られた。
だが、言葉とは裏腹にその表情はやけに嬉しそうで、大きな目に涙を浮かべて笑っている。
「今、その答えをくれるんだ、ふふ」
何がツボに入ったのか、声を上げてクレアは笑い出した。
……自分で問いかけたんだろう。『これとこれ、どっちがいいと思う?』と。
あの時、おれの目の前に差し出されていたのは、苺と林檎の柄が描かれたマグカップ。余ったから好きなものを使ってくれと常連客が数個持ってきてくれたのが今朝。
クレアは、昼過ぎまで苺と林檎で迷っていた。だから、最終的に縋るよう俺に問いかけてきたわけだが。
どうでもいいと言えば拗ねるし、答えれば声を上げて笑うし。俺に、どうしろと。
「ご、ごめ、そんなに困らないで」
「困ってない」
「顔が困ってるのー!」
ぽこりと腕を小さな手で叩かれた。
痛くはないが、あまりに必死すぎてじわじわと笑いがこみあげてきた。
よくもまあ短時間でこんなにもころころと表情を変えられるものだ。
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