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悪い、と小さく零しながら丸い頭を撫でようと伸ばした手の甲に――ポツリと水滴が落ちてきた。
「あれ?」
クレアも、自身の視線の先が濡れているのに気づいたのか勢いよく顔を上げて空を見ている。
その頬がわずかに緩んでいるのは気のせいだろうか。
「レイン!!」
「うるさい。なんだ」
「ねえレイン! 雨!!」
「見ればわかる」
「久しぶりだからうれし」
くふ、と笑いを漏らすクレアへと伸ばした手は引っ込みがつかずそのままだ。
どうしてくれようかと考えあぐねていると、クレアはするりとそこから抜け出し悪戯な笑みを浮かべた。
「レイン、お散歩しよっか」
「は?」
「お散歩」
「濡れるぞ」
「いいの」
伸ばした手を小さなそれが掴み、ぐいと引かれた。
突然の雨に、通行人は皆大急ぎで家路についている。こんな道の往来でごちゃごちゃやっているのは、俺たちだけだ。
そんな周りの動きが目に入っているのかいないのか。明日にしよう、の言葉をクレアは跳ねのけぶんぶんとかぶりを振っていくぶんか低い声音で言い放った。
「今日じゃなきゃやだ」
「何も言わず出てきたし、あんたすぐ風邪ひくだろう。だめだ」
「……レインのけち」
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