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口を尖らせるクレアを宥めるのは好物の甘味がない限り難しい。
これは長期戦になると溜息を零しつつ気を抜いていたのが災いした。
何を思ったのか、クレアは手を握ったまま駆け出した。
大きく身体が傾ぎはしたものの、なんとか転ばずには済んだ。だが、クレアの足は止まることなく水たまりに大きな波紋を作り上げていく。
空からは、次第に大きくなっていく雨粒。
目の前には、胡桃色の小さな頭。
「……ほんと、じゃじゃ馬なお姫様だ」
「う、ひゃぁっ!」
走ることしか考えていなかったじゃじゃ馬の腕を引き、ひょいっと抱え上げた。
「ば、ばかばかびっくりした!」
「あんただって急に腕引っ張ったろ」
「でもそれとこれとじゃ衝撃がっ、ひぃやぁぁっ」
「色気のない声だな」
「ううううるさい顔が近いのー!」
背中に回した手にぐっと力を入れると、真っ赤な顔をして身をよじり逃げようとする。
だが、俺だってそこそこ名の売れた傭兵だ。こんな小さくて細い少女にいつまでも振り回されるわけにはいかない。
「……ふん。大人しくしてたらいいんだ大人しく」
「それ今日読んだ小説の悪役が言ってた」
「うるさいな」
「ひゃっ」
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