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神谷神社を訪れたら、リナは狐たちの気配を察知するしぐさを見せていた。
「リナ。いえリュカ。久しぶり。」
「着物姿も新鮮だな、かのん。」
「あなたの男言葉もね。」
互いに笑い合ってから、リナが耳に口を寄せた。
「今、何かが横切らなかったか?」
今はリナの足下に座ってるよ。
「うーん。もう一声。」
目を見開いたリナがニヤリと笑った。
「今は見えない。でも、あきらめないからな。」
「ふふっ。誰に言ってるの?」
「今、横切った者たち。かのんに訊いたら意味ナイしな。」
そこで凛音が微笑んだ。
一瞬時が停まった感覚に喜びが沸き上がった。凛音は本気の恋に巡り逢えたのだろう。凛音とリナが手を繋いで光の方へと走る印象的な未来が、確かに視えたから。
リナではなくリュカ。
女性ではなく男性。
リナが男性として生きていくことが、弟子入りの条件だったという。男性用の袴を着て、化粧も物腰も女性的な言動も全て禁止にしたのだ。
断髪しないことを条件に神谷神社で過ごしていたリナが、徐々に変わっていったという。
【リナが調和の役割を果たしている。】
【リナが凛音に心を添い遂げておる。】
狐たちの真言が届いた。
凛音も神谷神社の後継者として気負い過ぎていたのが、リナを意識することで肩の力が抜けたようになったらしい。
狐たちはリナを弟子にすることで、凛音の成長を期待していた。
巫女の特質である神気を向上させるには自身で“何か”を掴み取るしかない。教科書に書いてあるわけでもないし、マニュアルがあるわけでもない。第六感を具現化するというチカラを得るには、自身で見つけるしかないのだ。
鵺との戦いが控えている。
会館と相対的な関係である神谷神社が破られると、決して無傷では済まない。肉体的な病や怪我とかではなく、鵺が神谷神社を媒体に意のままに操るための、鵺の拠点とされてしまう可能性もある。
沸き上がる神気をコントロールできるのは、神谷神社の巫女である凛音だけだ。
【よかったわ。緋近、蒼遠。】
黙礼した狐たちも微笑んでいた。
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