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風が舞い上がる。降り注ぐ太陽の光を浴びている優美な陽樹が、歌うようにわたしの名を呼んだ。
「かのん。」
朝日の中で抱擁しながら挨拶をする。
「おはよう陽樹。」
「今日から学校だね。どうする?」
「大丈夫よ。いつもと変わらない、いつも違う朝よ?」
「わかったよかのん。ひとりで行くんだね。」
目で頷きながら、陽樹の付き添いを断った。
「だって彼ならば恐れることはないわ。そうでしょう?」
「転生をせず、黄泉に留まっているのだよ。輪廻から外れたら二度と戻れない。」
「わかってるわ。」
翡翠色の瞳に乱反射して輝きを放っている。ああなんてキレイなんだろう。
「仰せのままに。」
微笑んだ陽樹が、優しく背中を押した。
「行ってらっしゃい。」
「此処を頼むわ陽樹。」
「御意。」
初秋というより晩夏に相応しい残暑が続いている。新学期を迎えた生徒たちは、どこかぎこちない。大学受験を控えた大事な時期であり、夏休みも勉学中心だった人も多く、疲労感を滲ませていたり、焦燥感を漂わせていたりする。
早く大人になりたいと思ってしまう。実力テストと言われてしまえば尚更。
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