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毎朝、爽やかな歌声で目覚める。晴れても雨でも、くもりでも。感情のままに即興で口ずさんだり、誰もが知る名曲だったり歌い手の気分次第だ。
幼い頃から途絶えることのない歌声が、今朝もわたしの心身に駆けていくように伝わっていくと、今日が始まる。
ベッドから降りて窓を開けたら、ウッドデッキに佇む陽樹の横顔に、思わず見とれてしまう。
朝日に溶け込むような朝日を従えているような、言葉では表現しきれない自然美を観賞しているような気持ちになる。
「かのん。今朝も素敵だね。」
わたしを呼ぶ声も挨拶も、音楽そのもの。
「か、の、ん。」
翡翠色の瞳が朝日に反射してキラキラ揺れている。艶やかな緑髪をなびかせた陽樹は誰もが羨む美しさ。
「おはよ陽樹。」
「おはよう、かのん。」
心地よく響く陽樹の声ににっこり笑った。
螺旋階段を降りると居間に出る。素早くシャワーを浴びて、制服に着替えた。
洗面所で髪を整えると、祖母譲りの栗色の髪が艶々している。
昔は黒髪じゃないことがコンプレックスだったけど、校則がゆるくなった高2の今は、チャームポイントだと思ってる。
わたしは桐島奏音。16才。高校に通いながら、祖父の後継ぎとして「きりん芸術会館」の館長補佐をしている修行の身。現在、祖父と愛犬ミライと3人暮らし。
親元を離れて約一年間。やっとこの生活に慣れてきた気がする。
家事は分担しているけど、器用な祖父は独りで何もかも出来てしまうので甘えがちになる。
「おはよう。おじいちゃん。」
「おはようかのん。今日から高校2年生だね、おめでとう。」
「ありがと。行ってきます。」
会館の最上階にある祖父の自宅に居候している。エレベーターから降りると、裏門がスッと開いた。
【みんな、行ってきます。】
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