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翌日。無断撮影や無断侵入もなく、特にトラブルも発生せず、無事アルバイトが終わった。アルバイト代は日給4500円だけど、2日間連続だったので、ひとり1万円ずつ手渡してくれた。
「みんな、お茶を召し上がってね。」
「はーい。」
「ほらみて。玉木くんとこの和菓子だよ。菖蒲の花が描かれているの。」
「キレイな藍色ね。」
季節ごとに包装紙に描かれる花が変わるのは、謙一の母のこだわり。
「かのんちゃん。天音叔父さんにお渡しして貰える?」
お試しセットと呼ばれる5種類の和菓子が入った詰め合わせだ。
「お気遣いありがとうございます。祖父も喜びます。」
叔父さんは笑顔で手を振ってくれた。
迎えに来てくれた智夏と歩きながら愚痴る。わたしが弱音を吐くのも気持ちを吐露するのも四象だけだから。
「智夏あのね。みんなの恋愛話きいてフクザツな心境なの。凛音の告白が上手くいけばいいなって思うし、謙一の返事も気になる。それを知ったときの山本くんが辛いだろうってわかるし。人の感情って本当に難しいね。」
「ああ。人とは誠に不可思議な生き物だ。耐え忍ぶ辛抱強さは白炎の如し。激情に憤る嫉妬深さは黒炎の如し。慈しみ悲しむ慈悲深さは蒼炎の如し。」
「智夏は、人の感情を炎で例えるよね?」
「はっきりしてるじゃないか。秘めた思いに身を焦がすのも、沸き上がる欲情に身を委ねるのも。かのん?」
智夏が刹那に結界を施し、わたしを抱き上げた。
「昨夜は夢での逢瀬だけで寂しかった。今夜は伴に眠ろう。」
「うん。」
智夏の耳に囁いた瞬間、自室に到着していた。
夕食になり居間に降りると、祖父にお土産を手渡した途端、顔をほころばせた。
「かのん、お疲れ様。楽しめたかい?早速戴くとしよう。」
お兄ちゃんのチーズケーキと同じくらい、謙一ん家の和菓子に目がない祖父は、わざわざ抹茶を点てるため、ご機嫌で茶筅を取り出していた。
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