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男子生徒にプリントを持たせ担任が入ってきた。
癖のないさらさらした黒髪をひとつに束ねている。縦線入りの黒のスーツに薄緑のシャツ。深緑のネクタイに黒革の靴はピカピカしてる。
ビシッとスーツを着こなすなんて反則だと思う。
「みんな席につけ。始業式は9時から講堂で行われる。終わったら教室でオリエンテーションだ。俺は担任の賀茂聡太郎26才独身だ。」
教室がざわつく。
「独身だったんだ。」「カノジョは?」「意外に若いな。」「ネクタイ地味。」「賀茂ならイケる。」「女慣れしてそ。」
無関心な人聞き流す人もいる生徒の中で、からかわれる担任って大変。
「ったく脳内の声を漏らすなよ?ほら緒方は前の席にプリント配れ。4月のスケジュールとか諸々な。自己紹介なら互いでやれよな。形式的にやっても頭入らんだろ?まぁ一年間楽しんでくれ。」
担任は自席に座ると、プリントの補足をした。
「明日は身体測定で体操服着用。昼食いるから忘れるなよ?明後日から授業開始で選択科目によっては持ち物違うから、ちゃんと見ておけよ。何か質問疑問はあるか?」
廊下側の濱口が挙手しながら、
「センセ、部室には今日から入れんの?」
フレンドリーな聞き方だね濱口くん。礼儀にうるさい担任は右の眉が上がったのとほぼ同時に、わたしの耳にだけ、犬が威嚇する唸り声が聞こえた。
「それは顧問に訊けよタメ口、いや濱口。」
「つまんねー。」
「俺のせいじゃねーよタメ口。」
目を細めた担任は、濱口だけに殺気を送っていた。
「はいはい。わかりま~し~たぁ~。」
ドッと笑いが起こった。濱口の周囲の男子がニヤニヤしてた。
「さっ時間だ。講堂へ行くぞ。」
皆は流されるように教室から出ていく。わたしも園ちゃんと鈴ちゃんの間に挟まれて講堂に向かった。
◇
オリエンテーションが始まった。必須科目は文系コースと理系コースに分かれていて、各クラスは混合して編成されている。
わたしは文系コースで女子は7割に相当する。園ちゃんや鈴ちゃんも同じみたい。
美術は絵画と造形があり、テーマや課題作品を選ぶので説明だけだった。音楽は声楽と楽器の担当は授業で振り分けられるらしい。
選択科目は茶道、華道、書道の内ひとつ。剣道、柔道、空手、合気道の内ひとつ。わたしは書道と空手になった。
時計の短針が11を指して学校は終わった。
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