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「キッチンの食器。二人分しかないじゃない。それに男物の服や靴も見あたらないし。あんた、お父さんとは別々にくらしてんでしょ。兄弟もいないみたいね」
「う、うん……。そうだよ」
光のお父さんとお母さんは、三年前に離婚していた。
光はお母さんといっしょに暮らし、お父さんとはもう二年以上会っていない。ちらっと聞いた話では、お父さんはもう別の女の人と再婚したらしい。
「家族や友達が多いと、入れ替わったあと、その人たちみんなをだましてなきゃいけないじゃない? だます相手は少ないほうがらくだもん」
だませるわけないじゃんか、と、光は言おうとした。
学校のクラスメイトや先生ならともかく、お母さんが、光が別人と入れ替わったことに気づかないはずがない、と。
……でも、言えなかった。
本当に、そうだろうか?
もしも本当に光とひかるが入れ替わったとしても、お母さんはそれに気がついてくれるだろうか?
はっきり、そうだと言い切れる、自信がなかった。
――たとえば、お母さんが誰か別の人に入れ替わってて、ぼくのお母さんのふりしてるだけだとしたら……ぼくに、それがわかるだろうか?
そこまで、ぼくはお母さんのこと、よく知ってただろうか。
お母さんとちゃんと話をしてたかな。
お母さんはいつも仕事で忙しいし、帰りが遅いこともしょっちゅうだ。
光も、学校であったことやその日一日のこと、自分からお母さんに話すことなんかめったにない。お母さんにしつこく質問されて、うん、とか、そうだよ、とか、いい加減に返事をするだけだ。
だって小六にもなって、男が、お母さんと仲良くおしゃべりするなんて。
女の子ならともかく、そんなのなんだかはずかしくって、できやしない。
お母さんのほうも、光のそんな気まずい思いに気がついているのか、なんとなく話しかけにくそうにしている。
二人で話す時間は、ますます減る一方だ。
これじゃ、おたがい、相手が別人と入れ替わってたとしても、まったく気づかないんじゃないだろうか。
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