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「それに、自殺志望の人間をもういっぺん探して回るの、めんどくさいし。そいつが借金まみれのおっさんとか、汚職がばれて警察につかまる寸前の役人とかだったら、もう目もあてらんないじゃん。あたしだってそりゃ、もういっぺん死ぬしかないわよ。でもあんたなら、まだ夢も希望もある小学生だもんね!」
――夢や希望があったら、誰が自殺なんかするもんか。
うつむき、光は両手をぎゅっとにぎりしめた。
「自殺ってね、たいがい一回じゃ成功しないもんなのよ」
ひかるが言った。
「あんたも必ず、もう一回やろうとするはずよ。あたしはそれを待つことにする。それがいちばん、効率がいいもん」
「ま、まさか、ぼくがもう一回、どっかから飛びおりようとするまで、ずっとそうやって、くっついて回るつもり!?」
「そうよ」
けろっとして、ひかるは言った。
「安心しなさい。あたしの姿は、あんた以外の人間には見えないはずだから。て言うか、あたしが見えた人間、今まで一人もいなかったもん。あんたが幽霊にとりつかれてるなんて、誰にもわかりゃしないわ」
それに第一、と、けらけら笑う。
「あんた、もう半分死んでるみたいな顔してるじゃん。幽霊にとりつかれようがなんだろうが、今さらたいして変わりゃしないって!」
ひかるは窓を指さした。
外はかなり暗くなり、窓ガラスは鏡のように部屋の中の様子を映している。
そこに、ひかるは映っていなかった。
映っているのは、光の姿だけだった。
「ぼく……」
窓ガラスに映る自分の姿に、光は目を向けた。
その顔は、表情も乏しく生気がなく、口元は力なく半開き、目はどんよりとして、たしかに半分死んでいるみたいな顔だった。
「光、光! いつまで寝てるの、起きなさい!」
お母さんに揺り起こされて、光はのろのろと目を開けた。
「んー……。もう朝なの……? まだ眠いよ――」
半分ねぼけたまま、光は大きくあくびをした。それでもなかなかまぶたが開かない。
「あたりまえでしょ。ゆうべ、あんなに夜更かししたんだから。またマンガばっかり読んでたんでしょ」
「え?」
そんなことないよ、と、光は言おうとした。
だってゆうべは、起きているのもいやになって、さっさと布団をかぶって寝てしまったのだ。
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