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とっくみあい、格闘技ごっこをしている生徒、対戦ゲームに夢中の生徒――学校にゲーム機を持ってきてはいけません、と、先生からしつこく言われているのだが――、スマホでゲームをしている生徒もいる。防犯のため、ケータイやスマートフォンを持ち歩くことは禁止されていないのだ。
女子の中には、鏡をのぞきこんでメイクを直している子もいる。
校則が何十年も前に作られた古いものなので、「学校にお化粧をしてきてはいけません」という一文がないのだ。校則ができた当時の小学生は、誰もメイクなんかしていなかっただろうから。
メイクをして登校する子は、最初は2、3人だった。
だが、いつのまにか
「あの子がメイクしてかわいくなってるのに、あたしがすっぴんじゃはずかしい」
と、クラス中に伝染して、今ではクラスの女子の半数以上がなんらかのメイクをしている。すっぴんの子は、親がアタマが古くて許してくれないと、文句ばかり言っている。
みんなが数人ずつのグループになって、好き勝手にしゃべっているため、教室全体がうわぁ…ん、といううなり声につつまれているみたいだ。
だが、
「……おはよう」
光が教室のドアを開けた瞬間、そのうなりが、ぴたりと止んだ。
教室全体が、凍りついたみたいに静かになる。
クラスメイトたちの視線が、一斉に光へそそがれた。
――こいつ、また来たよ。うぜぇー!
――うっそぉ、信じらんない。まだ生きてる。
声にならない声が、光のからだじゅうに突き刺さった。
――あーやだやだ。キモぉ! なんでこいつ、うちのクラスなわけ!?
――さっさと不登校になれよ、ばぁか!!
そしてみんなは、また一斉に光から目をそらした。
光がのろのろと自分の席へ向かっても、誰も光に声をかけようとしない。
光なんてまるで目に入らない、存在していないかのように、無視する。
だが本当は、見ていないわけではないのだ。
光と視線が合わないよう、顔を伏せながら、ちらちらと光の様子を盗み見ている。
光が今、どんな顔をしているのか、たしかめようとしているのだ。
光がどんなに傷ついているか、つらそうな顔をしているか、みんな、それが見たくてたまらないのだ。
くすくすくす……と、低い笑い声が聞こえる。とうとう我慢できなくなったらしい。
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