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まるで動物園の珍獣みたいに観察されながら、光は自分の席にたどりついた。
が、座ることができない。
机にも椅子にも、ゴミが山積みされていた。
どうやら、ゴミ箱を光の机の上でひっくり返したらしい。
くすくす笑いがさらに大きくなる。
その笑いのほうへ光が目を向けても、もう相手も視線をそらしたりしない。
みんな、光の不幸を心底おもしろそうに笑っている。
実際、おもしろくてたまらないんだろう。
他人を傷つけ、相手の哀しい顔をながめることは、クラスの中でいちばんおもしろいゲームだ。
しかもその相手が絶対に反撃してこないとわかっている場合は。
光は顔をはっきりとあげることもできなかった。
笑っているヤツらを真正面からにらんだりしたら、今度は殴られる。
てめえ、なに見てんだよ、キモい、こっち見んな、と、五、六人、それもガタイのいい、腕力が自慢のヤツらばかりに取り囲まれ、さんざん殴られ、蹴られた。
反撃なんかできるわけがない。
そんなことが何度もあって、いい加減、からだでおぼえた。
光はリュックをまだ汚れていない床に置くと、だまって教室のすみへ向かった。
掃除用具入れからぞうきんとモップを持ってこようと思ったのだ。
だが、
「さわんじゃねえよ」
掃除用具が入ったスチールロッカーの前に、一人の男子生徒が立ちはだかった。
「てめえがさわったら、井上菌がつくだろうがよ! クラスの備品を汚染する気か、てめえ!」
クラスの中でもひときわ声が大きく、体格もいい、森本だ。
――そうか。あのゴミも、やっぱり森本がやらせたんだ。
きっと自分でゴミ箱にさわるなんてことはしなかっただろう。
いつもまわりにくっついている、金子や福田、水沢あたりの子分に命令して、やらせたはずだ。
「それって、ヘンだよ。森本くん」
言ってもどうにもならないとわかっていながら、つい、光は口を開いてしまった。
「この教室の掃除は、もう何日もずっと、ぼくひとりでやってるじゃないか。ぼく、先週もここのモップやバケツにさわって、教室を掃除したよ。先週の放課後はさわって良くて、どうして今朝はさわっちゃいけないんだよ」
「う……うるせえ、井上、てめええッ!!」
森本の顔が真っ赤になった。
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