1 生きてる光と死んでるひかる

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 まるで動物園の珍獣みたいに観察されながら、光は自分の席にたどりついた。    が、座ることができない。    机にも椅子にも、ゴミが山積みされていた。    どうやら、ゴミ箱を光の机の上でひっくり返したらしい。    くすくす笑いがさらに大きくなる。  その笑いのほうへ光が目を向けても、もう相手も視線をそらしたりしない。  みんな、光の不幸を心底おもしろそうに笑っている。    実際、おもしろくてたまらないんだろう。  他人を傷つけ、相手の哀しい顔をながめることは、クラスの中でいちばんおもしろいゲームだ。  しかもその相手が絶対に反撃してこないとわかっている場合は。    光は顔をはっきりとあげることもできなかった。    笑っているヤツらを真正面からにらんだりしたら、今度は殴られる。  てめえ、なに見てんだよ、キモい、こっち見んな、と、五、六人、それもガタイのいい、腕力が自慢のヤツらばかりに取り囲まれ、さんざん殴られ、蹴られた。  反撃なんかできるわけがない。    そんなことが何度もあって、いい加減、からだでおぼえた。    光はリュックをまだ汚れていない床に置くと、だまって教室のすみへ向かった。  掃除用具入れからぞうきんとモップを持ってこようと思ったのだ。    だが、 「さわんじゃねえよ」  掃除用具が入ったスチールロッカーの前に、一人の男子生徒が立ちはだかった。   「てめえがさわったら、井上菌がつくだろうがよ! クラスの備品を汚染する気か、てめえ!」  クラスの中でもひときわ声が大きく、体格もいい、森本だ。    ――そうか。あのゴミも、やっぱり森本がやらせたんだ。    きっと自分でゴミ箱にさわるなんてことはしなかっただろう。  いつもまわりにくっついている、金子や福田、水沢あたりの子分に命令して、やらせたはずだ。   「それって、ヘンだよ。森本くん」  言ってもどうにもならないとわかっていながら、つい、光は口を開いてしまった。   「この教室の掃除は、もう何日もずっと、ぼくひとりでやってるじゃないか。ぼく、先週もここのモップやバケツにさわって、教室を掃除したよ。先週の放課後はさわって良くて、どうして今朝はさわっちゃいけないんだよ」 「う……うるせえ、井上、てめええッ!!」  森本の顔が真っ赤になった。  
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