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光に反論されたことが、よっぽど我慢できなかったらしい。……しかも、どう考えたって、光の言っていることが正しいし。
それでも森本は、自分一人で光に手を出すなんてことは、絶対にしない。ここが森本の頭のいいところだ。
ぱっとうしろをふりかえり、そばにひかえている子分たちに、あごをしゃくって合図する。
「なんだよ、井上。そんなにゾーキンがほしいのかよ!」
「だったらてめえの服で拭けよ!」
「そうだそうだ、てめえの服なんか、どうせゾーキンといっしょじゃんか!!」
3人の男子が、いっせいに光に飛びかかった。
両脇から光の腕をつかまえ、光の席のそばまで引きずり戻す。
「い、痛いっ! 痛い、なにすんだよ、はなせよ!」
クラス中の生徒が、その光景を笑いながら見ていた。
「おら、拭けよ! さっさと拭いて、キレイにしろよ!!」
「なんだよ、いやがんじゃねえよ! 掃除すんの、手伝ってやってんじゃねえかよ!」
光は机の上に上半身を押さえつけられた。ゴミの山の上に。
「はーい、おそうじおそうじー!!」
金子だろうか、福田だろうか、浮かれて歌うように声をはりあげた。
左右から背中を押さえつけられ、光は汚れた机に押しつけられる。森本もそれに手を貸した。
彼らは光のからだでぞうきんがけを始めたのだ。
「おらおら、もっと力こめて拭けよ! ちっともきれいになってねえぞ!」
「井上、おめえ、これなめろよ! なめてキレイにしろよ!!」
教室中が笑い声に包まれた。
クラスメイトはみんな、いじめられている光を見て、とても楽しそうに笑っていた。
「やぁだぁ、きったねえー!」
「なんかぁ、ちょー笑えるんですけどー!」
「よく平気だよねー、あいつー!」
「そりゃそうだよぉ、だって井上だもーん。あははははーっ!!」
――平気じゃない。こんなことされて、平気な人間なんか、いるもんか。
光の苦しみは、誰にも届かない。
森本や子分たちも、本当に楽しそうだ。遠足や運動会よりも、ずっと、ずっと。
彼らにとって、光をいじめること以上に楽しいことなんか、ないのだろう。
やがて、ホームルーム開始を知らせるチャイムが鳴り響いた。
「どうしたの、みんな。早く席についてほしいなー」
クラス担任の相沢先生が教室に入ってくる。
相沢先生は、まだ独身の若い女の先生だ。
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