1 生きてる光と死んでるひかる

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 光に反論されたことが、よっぽど我慢できなかったらしい。……しかも、どう考えたって、光の言っていることが正しいし。    それでも森本は、自分一人で光に手を出すなんてことは、絶対にしない。ここが森本の頭のいいところだ。  ぱっとうしろをふりかえり、そばにひかえている子分たちに、あごをしゃくって合図する。   「なんだよ、井上。そんなにゾーキンがほしいのかよ!」 「だったらてめえの服で拭けよ!」 「そうだそうだ、てめえの服なんか、どうせゾーキンといっしょじゃんか!!」  3人の男子が、いっせいに光に飛びかかった。    両脇から光の腕をつかまえ、光の席のそばまで引きずり戻す。   「い、痛いっ! 痛い、なにすんだよ、はなせよ!」  クラス中の生徒が、その光景を笑いながら見ていた。   「おら、拭けよ! さっさと拭いて、キレイにしろよ!!」 「なんだよ、いやがんじゃねえよ! 掃除すんの、手伝ってやってんじゃねえかよ!」  光は机の上に上半身を押さえつけられた。ゴミの山の上に。   「はーい、おそうじおそうじー!!」  金子だろうか、福田だろうか、浮かれて歌うように声をはりあげた。    左右から背中を押さえつけられ、光は汚れた机に押しつけられる。森本もそれに手を貸した。  彼らは光のからだでぞうきんがけを始めたのだ。   「おらおら、もっと力こめて拭けよ! ちっともきれいになってねえぞ!」 「井上、おめえ、これなめろよ! なめてキレイにしろよ!!」  教室中が笑い声に包まれた。  クラスメイトはみんな、いじめられている光を見て、とても楽しそうに笑っていた。   「やぁだぁ、きったねえー!」 「なんかぁ、ちょー笑えるんですけどー!」 「よく平気だよねー、あいつー!」 「そりゃそうだよぉ、だって井上だもーん。あははははーっ!!」  ――平気じゃない。こんなことされて、平気な人間なんか、いるもんか。    光の苦しみは、誰にも届かない。    森本や子分たちも、本当に楽しそうだ。遠足や運動会よりも、ずっと、ずっと。  彼らにとって、光をいじめること以上に楽しいことなんか、ないのだろう。    やがて、ホームルーム開始を知らせるチャイムが鳴り響いた。   「どうしたの、みんな。早く席についてほしいなー」  クラス担任の相沢先生が教室に入ってくる。  相沢先生は、まだ独身の若い女の先生だ。  
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