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森本たちはようやく、光から手を離した。
「先生、おはよーございまーす!」
せいいっぱい明るく元気そうな声を出して、森本は先生ににっこり笑ってみせた。
子分たちもみんな、急いで自分の席に戻る。
光はのろのろとからだを起こした。
机にごりごり押しつけられて、からだ中があちこち痛い。服はどろどろに汚れてしまった。
それでも椅子にはまだ、ゴミが山積みされている。
その上に座るしかない。
「じゃあ、出席をとるからねー」
相沢先生は黒板の前に立ち、みんなに明るく声をかけた。
それから、あいうえお順で生徒ひとりひとりの名前を呼び上げる。
いつもどおりのホームルームの始まりだ。
井上光くん、と、光の名を呼んで、先生はようやく光の様子に気がついた。
「井上くん……。ど、どうしたの?」
「いいえ、なんでもありません」
なんでもないはずがない。
顔も服も汚れて、すり傷もいっぱいできている。机はゴミがなすりつけられて、真っ黒だ。
それでも光は、即座に「なんでもありません」と答えた。
「そう……」
相沢先生は、うつむいた。逃げるように、光から目をそらす。
教室のあちこちから、くすくす、くすっ、と、小さく笑い声が聞こえた。
みんな、お互いに突っつきあったり、こっそり光を指さしたりして、楽しそうに笑っている。
相沢先生は、半分こわごわと、光の席のそばまで近づいてきた。
「ね、ねえ、井上くん――」
消えそうな声で、光に話しかける。
けれど、光をちゃんと見ようとはしない。おどおどと目を伏せたままだ。
「本当に、先生に相談したいこと、なんにもないのね? よけいなことかもしれないけど、もしかしたら、なにか、先生にもできることがあるかもしれないし――」
光はなにも答えなかった。
相沢先生の言葉は、
「あなたのことで、先生にできることはなんにもないから、相談なんかしてこないでね」
という意味だ。
その証拠に、光がそのままなにも言わないでいると、相沢先生はあきらかにほっとしたようだった。
「じゃ、授業を始めよっか。みんな、教科書を出してくれるかなあ?」
そしてなにごともなかったように、一時間目の授業が始まった。
国語、算数、ただ時間だけがのろのろとすぎていく。
理科の授業では、実験のためにいくつかの班にわかれた。
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