1 生きてる光と死んでるひかる

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 森本たちはようやく、光から手を離した。   「先生、おはよーございまーす!」  せいいっぱい明るく元気そうな声を出して、森本は先生ににっこり笑ってみせた。    子分たちもみんな、急いで自分の席に戻る。    光はのろのろとからだを起こした。    机にごりごり押しつけられて、からだ中があちこち痛い。服はどろどろに汚れてしまった。  それでも椅子にはまだ、ゴミが山積みされている。  その上に座るしかない。   「じゃあ、出席をとるからねー」  相沢先生は黒板の前に立ち、みんなに明るく声をかけた。  それから、あいうえお順で生徒ひとりひとりの名前を呼び上げる。  いつもどおりのホームルームの始まりだ。    井上光くん、と、光の名を呼んで、先生はようやく光の様子に気がついた。   「井上くん……。ど、どうしたの?」 「いいえ、なんでもありません」  なんでもないはずがない。  顔も服も汚れて、すり傷もいっぱいできている。机はゴミがなすりつけられて、真っ黒だ。  それでも光は、即座に「なんでもありません」と答えた。   「そう……」  相沢先生は、うつむいた。逃げるように、光から目をそらす。    教室のあちこちから、くすくす、くすっ、と、小さく笑い声が聞こえた。  みんな、お互いに突っつきあったり、こっそり光を指さしたりして、楽しそうに笑っている。    相沢先生は、半分こわごわと、光の席のそばまで近づいてきた。 「ね、ねえ、井上くん――」  消えそうな声で、光に話しかける。  けれど、光をちゃんと見ようとはしない。おどおどと目を伏せたままだ。 「本当に、先生に相談したいこと、なんにもないのね? よけいなことかもしれないけど、もしかしたら、なにか、先生にもできることがあるかもしれないし――」  光はなにも答えなかった。    相沢先生の言葉は、 「あなたのことで、先生にできることはなんにもないから、相談なんかしてこないでね」  という意味だ。    その証拠に、光がそのままなにも言わないでいると、相沢先生はあきらかにほっとしたようだった。   「じゃ、授業を始めよっか。みんな、教科書を出してくれるかなあ?」  そしてなにごともなかったように、一時間目の授業が始まった。    国語、算数、ただ時間だけがのろのろとすぎていく。    理科の授業では、実験のためにいくつかの班にわかれた。
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