2人が本棚に入れています
本棚に追加
1 生きてる光と死んでるひかる
六車線の大きな幹線道路は、今日もかなり混んでいた。
光は、道をまたぐ歩道橋のまんなかにしゃがみこんで、らんかんのすきまから、下を通る車をぼんやりながめていた。
古い歩道橋は、下を大型車が通るたびにずんずん揺れる。ダンプなんかが通ったら、まるで地震みたいだ。
――あんなでっかい車に轢かれたら、ぼくなんて、きっとぺちゃんこだろうな。
つぶれたカエルみたいに、アスファルトの路面にへばりつく自分を、想像してみる。
「……きもちわりい」
轢かれたら、痛いかな。痛いだろうな。でも、きっと一瞬だ。わあッって思ったら、もうぺっちゃんこのぐっちゃぐちゃだ。
首吊りや飛び降りと、どっちが痛いだろう。
でもぼく、三階以上の高いところにのぼると、怖くて目もあけていられないし……。
本当のことを言えば、この歩道橋を渡るのだって、怖いのだ。渡っているあいだは、いつも足の裏がむずむずする。
それなのに光は、もう三〇分近くも、歩道橋のまんなかにしゃがみこんでいた。
半透明のプラスチック板でできたらんかんは、ちょうど光の目の高さだ。
だが下のほうには隙間があいていて、しゃがめばそこから下の道路が見える。
ランドセルがわりのリュックをかかえ、ずっと歩道橋でしゃがみこんでいる光を、通りがかった人たちは、みんな、不思議そうな、どこか気味悪そうな顔でながめていた。
けれど、誰ひとりとして、光に声をかけようとはしなかった。
月曜日の午後一時半。
ふつうなら、小学生がこんなところにひとりきりでいるはずはないのに。
光は、小学六年の男子としては、ごくふつうの背丈だ。
同じクラスの男子には、体格が良くて、しょっちゅう中学生や高校生にまちがわれているヤツもいる。女子だって、毎日ばっちりメイクしてきて、とても小学生に見えない子が多い。
けれど光は、服装もトレーナーにハーフのカーゴパンツと、ありきたり。どこから見ても、ただの小学生だ。
なのに通りかかる大人たちは、そんな光が、ふつうなら学校にいるはずの時間に、たったひとり、歩道橋の上にしゃがみこんでいても、ふしぎともなんとも思わないらしい。
いや、光の様子がなにかおかしいと思っているから、そんなヘンな子供にはかかわりたくないと、足早に光のそばから逃げていくのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!