1 生きてる光と死んでるひかる

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 酢豚のケチャップソースの中に、光の顔が押しつけられる。目の中にソースが入って、ものすごく痛い。    森本たちは、笑っていた。  クラス全員が、笑っていた。光がもがき苦しむ様子を見て、とても楽しそうに、うれしそうに。    みんな、今日も大満足のようだった。 「ふーん、なるほどね」  ぼそっとひかるがつぶやいた。    放課後、とぼとぼと家に帰る光の上に浮かんで、光の姿を見下ろしている。    光の服はどろどろに汚れ、まるでゴミ捨て場から這い出してきたみたいだ。スニーカーには黒の油性ペンでらくがきされていた。   「あんた、それで自殺しようとしてたんだ」  光はようやく、ひかるを見上げた。    まわりに人影はない。  今なら、ひかると話をしても大丈夫だ。   「わかったろ? ひかるだって、ぼくと入れかわったりしたら、すぐに自殺するしかないだろ?」  かすかに笑いながら、光は言った。  もう、笑うしかない。   「早く帰ろうよ。家ん中だったら、ひかるとゆっくり話ができるからさ」  それから光は、足早に自宅マンションへ戻った。    部屋に入るとまず、汚された服を着替えて、洗濯機へ放り込む。   「洗濯はぼくの仕事なんだ。学校から帰ると、まずこうして、洗濯機回すの。だから、お母さんには気づかれなくてすんでるんだよ」  だけど、と、光はため息をついた。 「あの靴は……どうしようかなあ。油性のペンで書かれちゃったから、洗っても落ちないなあ。しばらく隠しておくしかないか」  全自動洗濯機がうなりをあげて回り出す。    光は自分の部屋に入った。  ひかるもふわふわとついてくる。    部屋に入ると、光はすぐにベッドに横になった。  正直言って、からだじゅうがあちこち痛くて、椅子に座るのもつらいのだ。    ひかるは天井付近にふわふわ浮いて、ぽそっとつぶやいた。 「あんたのクラス担任もだらしないわねえ。あたしとそうかわんない年令だろうけどさ、でも、まがりなりにも教員試験パスしてんだから、もうちょっとまともな指導とか、できないのかな」 「しょうがないよ。相沢先生は、森本の親が怖いんだ」 「え?」 「ぼくだって、最初は先生に相談したんだよ。そしたら――」  相沢先生は、森本やその子分たちを職員室に呼び出し、話をした。  
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