2人が本棚に入れています
本棚に追加
酢豚のケチャップソースの中に、光の顔が押しつけられる。目の中にソースが入って、ものすごく痛い。
森本たちは、笑っていた。
クラス全員が、笑っていた。光がもがき苦しむ様子を見て、とても楽しそうに、うれしそうに。
みんな、今日も大満足のようだった。
「ふーん、なるほどね」
ぼそっとひかるがつぶやいた。
放課後、とぼとぼと家に帰る光の上に浮かんで、光の姿を見下ろしている。
光の服はどろどろに汚れ、まるでゴミ捨て場から這い出してきたみたいだ。スニーカーには黒の油性ペンでらくがきされていた。
「あんた、それで自殺しようとしてたんだ」
光はようやく、ひかるを見上げた。
まわりに人影はない。
今なら、ひかると話をしても大丈夫だ。
「わかったろ? ひかるだって、ぼくと入れかわったりしたら、すぐに自殺するしかないだろ?」
かすかに笑いながら、光は言った。
もう、笑うしかない。
「早く帰ろうよ。家ん中だったら、ひかるとゆっくり話ができるからさ」
それから光は、足早に自宅マンションへ戻った。
部屋に入るとまず、汚された服を着替えて、洗濯機へ放り込む。
「洗濯はぼくの仕事なんだ。学校から帰ると、まずこうして、洗濯機回すの。だから、お母さんには気づかれなくてすんでるんだよ」
だけど、と、光はため息をついた。
「あの靴は……どうしようかなあ。油性のペンで書かれちゃったから、洗っても落ちないなあ。しばらく隠しておくしかないか」
全自動洗濯機がうなりをあげて回り出す。
光は自分の部屋に入った。
ひかるもふわふわとついてくる。
部屋に入ると、光はすぐにベッドに横になった。
正直言って、からだじゅうがあちこち痛くて、椅子に座るのもつらいのだ。
ひかるは天井付近にふわふわ浮いて、ぽそっとつぶやいた。
「あんたのクラス担任もだらしないわねえ。あたしとそうかわんない年令だろうけどさ、でも、まがりなりにも教員試験パスしてんだから、もうちょっとまともな指導とか、できないのかな」
「しょうがないよ。相沢先生は、森本の親が怖いんだ」
「え?」
「ぼくだって、最初は先生に相談したんだよ。そしたら――」
相沢先生は、森本やその子分たちを職員室に呼び出し、話をした。
最初のコメントを投稿しよう!