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それはたぶん、お説教とか、そんなきついものではなかっただろう。相沢先生は、クラスのみんなに対して、いつも友達みたいな話し方をする。
きっと森本たちにも、
「先生、森本くんたちがほんとは優しい子だって、ちゃんとわかってるのよ。ただちょっと、ふざけちゃっただけよね? もう、やめてくれるよね?」
くらいのことしか言わなかったに違いない。
そうしたら、次の日、いきなり森本の母親が学校にどなりこんできたのだ。
「先生、うちの子がいじめをしてるってお叱りになったそうですね!? どこにそんな証拠があるんです! うちの子は絶対にいじめなんかしていないって、言ってます! タカヒロは、いじめなんかできるような子じゃありません、本当に心の優しい、いい子なんですよ!!」
森本の母親は校長室にまで押しかけて、廊下にまでひびきわたるほどの大声で、どなり続けた。
「うちの子にいじめられたって告げ口した子を、ここに呼んでください! 先生はどうせ、その子の言い分だけを聞いて、一方的にうちの子が悪いって決めつけたんでしょう! だから、その告げ口した子と、うちの子と、ここに二人並べて、どっちが本当のことを言ってるか、たしかめなくちゃ。もちろん、それぞれの親の立ち会いのもとで!!」
「い、いや、お母さん、もう少し穏便に……」
「なにをおっしゃるんですか、校長先生! うちの子が、うその証言で無実の罪を着せられそうなんですよ!!」
母親が抗議しているあいだ、森本は母親のうしろで、ずっと泣きまねをしていた。
「さあ、そのうそつきの生徒と、その親をここに呼んでください! さあ、早く!!」
相沢先生はこどもみたいに泣きながら、光を校長室へ連れていった。
「ぼくん家、お父さんがいなくて、お母さんが働いてるからさ。お母さんが学校に来るには、会社を休まなくちゃいけないんだ。ただでさえお母さん、仕事が忙しくて、熱があってふらふらしてる時でも、無理して会社に行ってるのに、ぼくのために会社休んで学校に来て、なんて言えないよ」
「光――。じゃ、あんた……」
「ぼくが、あやまったんだ。校長室で、森本の親に」
なんと言ってあやまればいいのかは、相沢先生が教えてくれた。
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