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「森本くんがぼくをいじめたというのは、ぼくのかんちがいでした。森本くんはぼくと仲良く遊んでくれていたのに、ぼくが体力がなかったため、その遊びについていけなかったんです。いじめられたというのは、全部ぼくの被害妄想です」
と。
「ねえ、ひかる。ひがいもーそーって、なに?」
「たいしてひどい目にあってもいないのに、自分だけがめちゃくちゃいじめられてる、ひどい目にあわされてるって、思い込むことよ。ま、あんたのことじゃあ、ないわね」
「そっか。やっぱりぼくが悪いんじゃないんだ」
「当たり前でしょ。いじめで一番悪いのは、いじめてるヤツに決まってるじゃない」
ひかるの言葉に、光は少しだけ安心したように笑った。
「毎日毎日キモいだのウザいだの言われ続けてるからさ、ほんとにぼくがキモくてウザいのが悪いんだって、なんかそんな気がしてきてたんだよ」
「ばっかね、あんた。だいたい、『キモい』とか『ウザい』とか、ほんとの意味はなに? 具体的には、どういうヤツのことを言うの? 国語辞典の説明みたいに、はっきり文章にして言ってごらん!?」
「えっ? えっと……。つまり、それは、なんとなく……」
光は答えにつまった。
そんなふうにあらためて質問されると、返事ができない。
――そうか。ぼくも、そしてきっとみんなも、たいして深く考えもせずに、こういう言葉を使ってるんだ。
ひかるは、そんな光に、それ見たか、と言うような顔をした。
「でも、そいつの親も、いったいなに考えてんのかしら。自分のこどもがうそついてんのも見抜けないなんて!」
「しかたないよ。森本の親も、きっと森本を守ろうとして、いっしょうけんめいなんだと思う」
ため息をつくように、光は言った。
「森本は五年生の時、ずっといじめられてたんだ」
「え……」
「先生と、森本の親が何度も話し合いして、いじめのリーダーになってるやつの親も学校に呼び出された。クラスでも、授業つぶして、何回も話し合いをしたんだ。六年になって、クラス替えがあって、森本へのいじめはなくなった。あいつ――きっと、勉強したんだと思う」
「勉強って、まさか……」
「そう。自分がいじめの被害者にならない、一番の方法。自分以外の誰かを、さきにいじめることだよ」
それから、光に対するいじめはいっさいの歯止めがかからなくなった。
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